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名古屋高等裁判所 昭和32年(ラ)40号 決定 1957年4月30日

抗告人 桜井紀

主文

原決定を取消す。

本件を津地方裁判所に差戻す

理由

抗告人は原決定を取消す。裁判長裁判官遠藤剛一、裁判官西岡悌次、裁判官西川豊長を忌避する。との旨の裁判を求めた。

抗告理由は別紙記載の通り。

依て一件記録中の「裁判官忌避の申立」と題する書面を検討するに先づ「控訴人清水健一、被控訴人大脇石油株式会社と表示した上「右当事者間の御庁昭和三十二年(レ)第七号事件につき控訴訴訟代理人は左記の通り裁判官忌避の申立をする」との前文及び申立の趣旨として「控訴訴訟代理人桜井紀は裁判官遠藤五一(剛一の誤記と認む)同西岡悌次西川豊長につき裁判の公正を妨くべき事情あるを以て忌避する」と掲記し次いで忌避の原因疏明方法及び年月日を列記し末尾に申立人として「右控訴人訴訟代理人桜井紀」なる表示がなされている。

而して右申立書の記載によれば之の忌避申立は当該事件の訴訟代理人たる桜井紀が、その本人なる清水健一の代理人としての資格によらず独立してなしたものでなく右清水健一を代理してなしたもの即ち右清水健一の申立と解するが相当である。

然るところ原審は右の申立が控訴人清水健一の訴訟代理人である申立人桜井紀個人によりなされたものとしてこれに対して、民事訴訟法第三十七条第一項によれば裁判官忌避の申立をすることができる者は当事者だけであつて、他に刑事訴訟法第二十一条第二項のような特別の規定もないのであるから、当事者から特定の忌避の申立につき特別の委任を受け、これを代理して申立てる場合は格別、たとえ当事者の為にする意図に出たものであつても、単に当事者の訴訟代理人たる資格において独立して忌避の申立をすることはできないものと断じなければならない。しかるに右忌避申立につき控訴人の特別の委任のあつたことを認めるに足る資料がない。よつて右忌避の申立は当事者以外の者の申立ということになり、不適法たることを免れない。としてこれを却下したのは前示説示に照し先づ本件忌避申立人を誤つたものといわなければならない。加之桜井紀が名古屋弁護士会所属の弁護士であることは当裁判所に顕著であり又同人が控訴人清水健一から津地方裁判所昭和三十二年(レ)第七号事件について訴訟委任を受けたことは事件記録添附の委任状によつて明かであるところ民事訴訟において弁護士に対する訴訟委任は民事訴訟法第八一条第二項掲記の事項を除いて当然当該審級における当該事件の代理に親しむ全事項(同法第一項の事項を含めて)に授権の効果を及ぼすものと解すべく忌避すべく忌避申立に限つて特にこれを除外すべき理由もなく又之にこの旨の規定も存しないのである。

以上説明のように本件忌避の申立は抗告人が控訴人清水健一の代理人としてなされたものと認められるので右忌避の申立は適法になされたものといわなければならないのに原決定は右と所見を異にし右忌避の申立は当事者以外の者である抗告人によつてなされた不適法なものとして却下したのであるから、原決定は不当としてこれを取消し、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十六条、第三百八十八条によつて本件を原審津地方裁判所に差戻すべきものとして主文のように決定する。

(裁判官 山田市平 県宏 小沢三朗)

抗告の理由

一、原決定によれば訴訟代理人が裁判官を忌避する旨の申立をするには特別の受任が必要であるとのことであるが、

1、民事訴訟は刑事訴訟と異り当事者本人は常時訴訟に直接関与するものではなく訴訟代理人制度が認められている、被告人は公判に出頭するのが原則なので刑事訴訟法第二十一条第二項の規定が制定されたものと考へられるし、民事訴訟法第三十八条第二項の「当事者カ裁判官ノ面前ニ於テ弁論ヲ為シ…………」の当事者には訴訟代理人を含まない意と解すれば裁判官に対する忌避の申立は事実上不可能となつてしまふ又民事訴訟法第八十一条第二項には忌避申立について特別の委任を受けることを要すると記されていない、従つて原決定には承服し難い。

2、裁判官に対する忌避の申立は、裁判官が憲法や法律にのみ拘束され良心に従い独立してその職権を行ふものであり裁判官の神聖を予定するものであらうか、個々の具体的事案に降しては生きている人間が裁判官たる以上時としては感情に駆られたり誤りを犯すこともあり得ることを前提として制定されたものであると考へる、上訴の制度も同様な意味を持つものではなかろうか、忌避にしろ、上訴にしろ、当事者に公正な裁判を求める機会を与へると同時に裁判官全体の国民に対する信用、権威を高める目的が意図がないとは否定出来ないであらう、天皇ノ名ニヨリ裁判を行つて旧憲法時代にさへ裁判官に対する忌避を為し得たことに思をいたし、憲法第十五条第二項及び同第三十二条の精神から云つて裁判官に対する忌避申立の権限が当事者より訴訟代理人に特別に委任されなければならないと解するのは不法不当な解釈といふ外はない。

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